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名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)3272号 判決 1990年10月05日

原告

前屋年和

ほか一名

被告

住友海上火災保険株式会社

ほか八名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告前屋年和(以下「原告前屋」という。)に対し、

1  被告住友海上火災保険株式会社(以下「被告住友海上」という。)は、金二二〇万八〇〇〇円

2  被告日動火災海上保険株式会社(以下「被告日動火災」という。)は、金三四九万六〇〇〇円

3  被告興亜火災海上保険株式会社(以下「被告興亜火災」という。)は、金二七六万円

4  被告大成火災海上保険株式会社(以下「被告大成火災」という。)は、金四七九万二四六四円

5  被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告東京海上」という。)は、金六九〇万円

6  被告全国労働者共済生活協同組合連合会(以下「被告全国労働共済」という。)は、金二七六万円

7  被告愛知県労働者共済生活協同組合(以下「被告愛知労働共済」という。)は、金一八四万円

8  被告愛知県共済生活協同組合(以下「被告愛知共済生協」という。)は、金三五六万九六〇〇円

及びこれに対する昭和六二年一〇月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告長岡晃(以下「原告長岡」という。)に対し、

1  被告興亜火災は、金二四七万五〇〇〇円

2  被告大正海上火災保険株式会社(以下「被告大正海上」という。)は、金四九五万円

3  被告大成火災は、金四二九万七五九〇円

4  被告東京海上は、金二八四万六二五〇円

5  被告全国労働共済は、金二四七万五〇〇〇円

6  被告愛知労働共済は、金一六五万円

7  被告愛知共済生協は、金三二〇万一〇〇〇円

及びこれに対する昭和六二年一〇月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが左記二1の交通事故の発生を理由に被告らに対し別表1及び2記載の各保険契約に基づき保険金請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  被告興亜火災、被告全国労働共済、被告愛知労働共済、被告大成火災、被告住友海上、被告日動火災、被告東京海上及び被告愛知共済生協は、原告前屋との間において、それぞれ、別表1記載のとおり保険契約を締結した。

2  被告興亜火災、被告全国労働共済、被告愛知労働共済、被告大正海上、被告大成火災、被告東京海上及び被告愛知共済生協は、原告長岡との間において、それぞれ、別表2記載のとおり保険契約を締結した。

二  争点

1  交通事故

(一) 原告らは、左記の交通事故が発生した旨主張し、被告らは、左記の交通事故は不存在であるとして争つている。

1 日時 昭和六〇年四月一一日午後一〇時ころ

2  場所 名古屋市昭和区阿由知通三丁目一五番地先路上

3  当事車両 原告前屋運転・原告長岡同乗の普通乗用自動車(以下「前屋車」という。)

訴外松永正和(以下「松永」という。)運転の普通貨物自動車(以下「松永車」という。)

4  態様 原告前屋は、前屋車を運転して北から南に向けて第二車線上を走行中(追突地点の手前百数十メートルのところで第三車線から第二車線に車線変更したもの)、追突地点の手前三、四十メートルのところで第三車線を走行中の車両が左にウインカーを出しているのを見て、右車両を間に入れるため減速し、通常の運転操作で停止したところ、その直後に松永車が前屋車に追突した。

(二) 原告らは、交通事故発生場所について予備的に「名古屋市昭和区阿由知通三丁目一二番地先路上」と主張する。

これに対し、被告らは、名古屋市昭和区阿由知通三丁目一二番地先路上において発生した前屋車と松永車の追突事故は、原告らの故意又は重過失によるものであるとして免責の抗弁を主張する。

2 被告ら(被告興亜火災、被告愛知労働共済、被告愛知共済生協を除く。)は、別紙抗弁一覧表1及び2の各<2>欄記載のとおり、告知義務違反又は通知義務違反を理由とする契約解除の抗弁を主張する。

3  被告全国労働共済及び被告愛知共済生協は、別紙抗弁一覧表1及び2の各<1>欄記載のとおり、安静加療中の者又はある種の疾患を有する者との契約が無効である旨の抗弁を主張する。

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  交通事故の発生

1  交通事故発生場所(衝突地点)について

(一) 甲第二号証によれば、本件事故発生場所付近の状況及び距離関係は、別紙図面記載のとおりであることを認めることができる。

(二)(1) 甲第一号証の二、乙第三号証、第一三号証によれば、次の事実が認められる。

イ 原告前屋及び松永は、昭和六〇年四月一一日午後一〇時過ぎ、昭和警察署に赴き、当直勤務中であつた司法巡査築山典次(以下「築山」という。)及び同馬渕悟(以下「馬渕」という。)に対し、交通事故の届出をした。築山らは、事故受付の机の前に原告前屋及び松永の両名を並んで座らせ、両名の中間辺りに住宅地図を広げて示しながら、事故発生場所について尋ねたところ、松永が御器所北交差点(押しボタン式信号機が設置されている。)の少し北側の地点(名古屋市昭和区阿由知通三丁目一二番地。以下「一二番地」と略して記載する場合もある。)を指示した。その際、松永は、右押しボタン式信号機が青信号を表示していた旨述べた。

原告前屋は、松永の右指示について何ら異議を述べなかつた。

ロ 昭和六〇年四月一二日午前一〇時〇分から午前一〇時二〇分までの間に名古屋市昭和区阿由知通三丁目一二番地先路上において実施された実況見分において、松永は、松永車が前屋車に追突した地点として御器所北交差点の北側約二五・九メートルの地点(一二番地)を指示した。

ハ 松永は、同人の業務上過失傷害被告事件(昭和六二年(わ)第一六六二号)第一四回公判期日の被告人質問においても、松永車が前屋車に追突した地点は、御器所北交差点の北側である旨供述している。

(2) 甲第五号証及び原告長岡本人尋問の結果によれば、松永車が前屋車に追突した後、両車両は八〇メートルから一〇〇メートルくらい南に移動して昭和区役所前の道路脇に寄せて停車したことが認められるが、右事実からも衝突地点が御器所北交差点の北側であることを推認することができ、松永の指示とほぼ一致する。

(3) 右(1)及び(2)に認定した事実を総合すれば、松永車が御器所北交差点の北側である名古屋市昭和区阿由知通三丁目一二番地付近路上において前屋車に追突したことを推認することができる。

原告らは、衝突地点は名古屋市昭和区阿由知通三丁目一五番地(以下「一五番地」という。)付近であると主張し、原告前屋は、本人尋問において右主張に沿う供述をするが、右(1)イ認定の事実に照らし、右供述は措信できない。また、甲第三号証にも右主張に沿う記述があるが、同様の理由から採用できない。さらに、甲第一一号証(原告長岡作成の図面)も原告らの右主張に沿うものであるが、甲第五号証によれば、原告長岡は本件事故発生当時前屋車の後部座席において眠りかけており、衝突地点を明確には認識していなかつたことが認められ、右事実に照らし、甲第一一号証も採用できず、その他衝突地点が一二番地付近路上であるとの推認を覆すに足りる証拠はない。

2  本件事故発生原因について

次に、本件事故は原告らの故意又は重過失によるものである旨の被告らの主張について検討する。

(一) 本件事故発生状況

甲第一号証の一、乙第三号証によれば、次の事実が認められる。

(1) 松永は、昭和六〇年四月一一日午後一〇時ころ、松永車を運転し、市道名古屋環状線の片側三車線のうち第二車線を阿由知通二丁目方面から阿由知通四丁目方面に向かい、時速四〇キロメートルないし五〇キロメートルで進行していたところ、中央分離帯寄りの第三車線を走行して来た前屋車が松永車を追い抜き、次いで、御器所北交差点横断歩道北側から北に向かつて約七五メートルの地点で、第三車線から第二車線に車線変更し、松永車の前方約二〇メートルに位置した。松永は、しばらくの間、前記速度で前屋車との間に一定の車間距離を置きながら走行していたが、前屋車の速度がアクセルを緩めたような感じで落ちていつたため徐々に車間距離が詰まつていつた。

当時、交通量は少なく、第三車線において前屋車の先行車がないにもかかわらず前屋車が第二車線に車線変更し、しかも速度を落としたため、松永は奇異な感じを抱いた。

(2) そこで、松永は、車線変更して前屋車を避けようと考えたが、前方の御器所北交差点の押ボタン式信号機が青信号を表示し、その南にある御器所交差点の信号機が赤信号を表示しているのを認め、前屋車を抜いても赤信号のため直ぐに停車しなければならないからこのまま前屋車に追随して行こうと思い直し、約二九メートル進んだところ、御器所北交差点横断歩道北側から北に向かつて約五二メートルの地点で松永車の前方一四・三メートルの地点において前屋車が急停止の措置をとつた。前屋車が急停止したのを見て、松永も直ちに急停止の措置をとつたが間に合わず、御器所北交差点横断歩道北側から北に向かつて約三四メートルの地点で、松永車は前屋車に追突した。

原告前屋は、本件事故状況につき、本人尋問において「交差点の手前四、五十メートルのところで第三車線上に右折車が四、五台並んでいてその後の車両が第二車線に入ろうとして左にウインカーを出していたので入れてやろうとして普通に停止したところ松永車に追突された。」旨供述するが、一二番地の御器所北交差点押ボタン式信号機が青信号を表示していて同所においては停車しなければならなかつた事情のなかつたことは原告前屋も自認するところであり(甲第八号証)、右供述は、衝突地点が一五番地であることを前提として初めて成り立ち得るものであつて、前記1に認定のとおり衝突地点は一二番地付近であるから、右供述は措信できない。

右認定事実を総合すれば、原告前屋は、松永車を追い抜いた上松永車の前方約二〇メートルの地点に車線変更したのであるから自車に松永車が追従していることを十分承知している上で、徐々に減速して松永車との車間距離を縮めるような運転をし、次いで、御器所北交差点押ボタン式信号機が青信号を表示していて同所においては停車すべき事情が全くなかつたにもかかわらず急制動の措置をとるという極めて異常な行動をとつたこと及び松永が予見不可能な前屋車の急停車に対応しきれず前屋車に追突してしまつたことが認められる。

そうとすれば、松永にも前屋車との間に十分な車間距離を保持しなかつたという落度が認められるものの、本件事故は、主として原告前屋の右のような異常な運転によつて発生したものというべきである。

(二) 原告らの治療状況

(1) 甲第六および第七号証、甲第九号証、原告前屋本人尋問の結果によれば、原告前屋は、昭和六〇年四月一二日、棚橋病院において頸部・頭部・腰部・右肩挫傷との診断を受け、同日から同年一〇月一一日までの一八三日間同病院において入院治療を受けたことを認めることができる。

(2) 甲第六および第七号証、甲第一〇号証、原告長岡本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告長岡は、昭和六〇年四月一二日、棚橋病院において頸部・頭部・腰部挫傷との診断を受け、同日から同年四月二二日までの一一日間、昭和六〇年六月二七日から同年七月七日までの一一日間、昭和六〇年七月二九日から同年九月一七日までの五一日間同病院において入院治療を受けたこと、また、昭和六〇年四月二二日から同年六月二五日までの六五日間藤田外科病院において入院治療を受けたことを認めることができる。

(3) しかしながら、甲第六および第七号証によれば、原告前屋及び原告長岡は、いずれも当初は加療約二週間との診断を受けていたことが認められ、また、甲第一号証の一から認められる前屋車及び松永車の損傷状況(前屋車については後部バンパーの凹損・小破、松永車については前部バンパーの凹損・小破)から本件事故による衝撃の程度は軽度なものであつたことを推認することができ、右事実に照らして考えると、原告らが本件事故により右(1)及び(2)記載の入院治療を真に必要とするほどの重篤な傷害を受けたとすることは極めて不自然である。さらに、両原告とも右のような長期に亘る入院治療の後、全く通院治療を受けていないことも理解に苦しむところである。

(三) 原告らの生命保険・損害保険等の契約締結状況

(1) 原告前屋

イ 当事者間に争いのない原告前屋と被告興亜火災、被告全国労働共済、被告愛知労働共済、被告大成火災、被告住友海上、被告日動火災、被告東京海上及び被告愛知共済生協との間における保険契約締結状況によれば、被告愛知共済生協との契約以外は、本件事故発生前一年以内に締結されており(被告愛知共済生協との契約は、昭和五九年一一月一六日に更新されている。)、その中でも被告全国労働共済との契約及び被告東京海上との一部の契約を除けば、いずれも本件事故発生前六か月以内に締結されている。

ロ 原告前屋が支払つていた保険料は月額合計一四万六三五八円であることは当事者間に争いがない。

甲第三号証及び原告前屋本人尋問の結果によれば、原告前屋は本件事故当時年収四〇〇万円ないし五〇〇万円の収入を得ていたことが認められる。

そうとすると、原告前屋はその収入に比して多額の保険料(収入の四割前後)の支払をなしていたことになる。

(2) 原告長岡

イ 当事者間に争いのない原告長岡と被告興亜火災、被告全国労働共済、被告愛知労働共済、被告大正海上、被告大成火災、被告東京海上及び被告愛知共済生協との間における保険契約締結状況によれば、被告愛知共済生協との契約以外は、本件事故発生前一年以内に締結されており(被告愛知共済生協との契約は、昭和五九年四月二三日、昭和六〇年一月一〇日に更新されている。)、その中でも被告全国労働共済及び被告大正海上との契約を除けば、いずれも本件事故発生前六か月以内に締結されている。

ロ 原告長岡が支払つていた保険料は月額合計二〇万四八一三円であることは当事者間に争いがない。

甲第五号証によれば、原告長岡は本件事故当時年収二五〇万円の収入を得ていたこと、原告長岡の妻は年収八〇万円ないし一〇〇万円の収入を得ていたことが認められる。

そうとすると、原告長岡は同人及びその妻の収入の合計額に比しても多額の保険料(同人及びその妻の収入の合計額の七割強)の支払をなしていたことになる。

(3) 原告らの保険契約締結状況の類似性

当事者間に争いがない原告らと被告らとの間において締結された保険契約の内容と締結時期を検討すると、次の事実が明らかとなる。

イ 被告全国労働共済との間において同じ内容の個人長期生命共済契約を、原告前屋は昭和五九年四月一六日に、原告長岡は昭和五九年五月二日にそれぞれ締結している。

ロ 被告全国労働共済との間において同じ内容のこくみん共済団体定期交通災害共済契約を、原告前屋は昭和五九年四月二一日に、原告長岡は昭和五九年四月二三日にそれぞれ締結している。

ハ 被告愛知労働共済との間において同じ内容の交通災害共済契約を、原告前屋は昭和五九年一二月二五日に、原告長岡は昭和六〇年一月一〇日にそれぞれ締結している。

ニ 鳴海商工会を通じて、被告大成火災との間において同じ内容の所得補償保険契約を、原告前屋は昭和六〇年一月一〇日に、原告長岡は昭和六〇年一月一二日にそれぞれ締結している。

ホ 鳴海商工会を通じて、被告大成火災との間において同じ内容の普通傷害保険契約を、原告前屋は昭和六〇年一月一〇日に、原告長岡は昭和五九年一一月三〇日にそれぞれ締結している。

ヘ 被告愛知共済生協との間において同じ内容の生命共済契約を、原告前屋は昭和五九年一一月一六日に、原告長岡は昭和六〇年一月一〇日にそれぞれ締結している。

(四) 原告前屋と原告長岡の関係についての両原告の言動

乙第一四号証の一ないし三、原告前屋及び同長岡各本人尋問の結果によれば、原告長岡は、昭和五九年一二月、原告前屋が弟の前屋勝喜名義で前屋車を購入する際、ローン契約の連帯保証人となつたこと、原告前屋は右車の購入代金の一部を原告長岡振出の約束手形四通(額面合計七八万)で支払つたことを認めることができる。

右事実によれば、原告らは親密な関係にあることが推認されるにもかかわらず、原告らは、松永の業務上過失傷害被告事件における証人尋問においても、本訴における原告本人尋問においても、「客どうしで世間話をする程度の仲で酒を注ぎ合つて話をするということは一度もありませんでした。」(原告長岡)、「妹がやつている料理屋に客として来た長岡と知り合つた。本件事故以前にも長岡に誘われてスナツクなどに二、三回行つたことがある。」(原告前屋)、「六、七回一緒に酒を飲んだことがある間柄にすぎない。」(原告長岡)などと、殊更、親密な関係にあることを否定する方向の供述に終始している。

(五) 以上(一)ないし(四)に判示した本件事故原因となつた原告前屋の異常な運転、原告らの治療状況、原告らの生命保険・損害保険等の契約締結状況、原告前屋と原告長岡の関係についての両原告の言動を総合すれば、本件事故は、原告らが共謀のうえ故意に松永をして追突事故を起こさせたものであることを推認することができ、右推認を覆すに足りる証拠はない。

(六) 従つて、商法六四一条により、被告興亜火災、被告大成火災、被告住友海上、被告日動火災、被告東京海上及び被告大正海上は、いずれも原告らに対する本件事故の発生を理由とする保険金の支払を免れる。

また、被告愛知共済生協、被告愛知労働共済及び被告全国労働共済についても乙第一九号証の五、第二〇号証の八、第二一号証の四及び五、第二二号証の五、第二九号証の三及び弁論の全趣旨によれば、別紙抗弁一覧表1及び2の各<3>欄記載の免責規定があり、従つて、いずれも原告らに対する本件事故の発生を理由とする共済金の支払を免れることが認められる。

従つて、原告らの本件事故の発生を理由とする保険金請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

二  結論

以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判官 深見玲子)

別表1

<省略>

別表2

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抗弁一覧表1

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抗弁一覧表2

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